史上最強スーパー台風「ハイエン」フィリピン上陸から5年
5年前の11月8日、台風30号(国際名ハイエン)がフィリピンに上陸、死者6千人を超す甚大な被害をもたらしました。ハイエンは上陸台風としては史上最強の勢力でした。最新の報告では海水温が想定外の速さで上昇していることが判明しており、更なる強い台風の脅威が危惧されています。
ハイエン上陸
2013年11月8日4時、フィリピン中部のサマール島付近に、猛烈な台風30号(国際名ハイエン)が上陸しました。上陸時の中心気圧は895hPa、最大風速は86メートル(1分間平均)で、上陸台風としては史上最強の勢力となりました。
ハイエンの被害
ハイエンによる死者数は6,200人超、行方不明者は約1,800名にも及び、フィリピン史上最悪の人的被害となりました。
死者の多くは、高潮が原因でした。その高さは最高で6メートルに達し、津波のように沿岸部を襲ったのです。しかしフィリピンには「高潮」に相当する言葉がなかったために、テレビなどで英語の「ストームサージ」という言葉を用いて危険性が伝えられ、多くの人々が理解できず避難が遅れたといわれています。さらに上陸が早朝で避難しにくい時間であったこともあって、被害が拡大しました。
特にレイテ島のタクロバンでは数千人が死亡、ほぼすべての建物が損壊するなど壊滅的な被害が発生しました。
ハイエンが上陸した直後に行われた国連気候変動枠組条約の会議では、フィリピン政府の代表が被災した人々を思って「意義のある合意が形成できるまで断食を続ける」と発言し、ニュースになったこともありました。
記録的な台風が発生するリスク
海水温の上昇が問題視されている昨今ですが、実際は言われていたよりもさらに速いペースで海水温が上がっているという 研究が発表されました。台風のエネルギー源は海からの水蒸気ですから、海水温が高いほど台風が発達しやすくなります。
米プリンストン大学のレスプランディ助教授によると、1991年以降10年ごとに4℃ずつ海水温が高くなっていたと考えられていたものの、実際のところは6.5℃ずつ上昇しており、これまでの推定の1.6倍も海が熱を吸収していたことが明らかになったのです。
海水温の上昇によって、今後さらに強大な台風が発生するだけではなく、海面上昇も起きて高潮被害が起きやすくなることも懸念されます。
【参考:過去の台風の記録】
※ハイエンの中心気圧はフィリピン上陸前に860hPaまで下がった可能性があります。もし確定すれば、1979年ティップの870hPaを抜き、世界最低気圧の台風の記録ともなります。
NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。
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