大隅良典とオートファジー

オートファージーの研究で有名な大隅博士について、

JCBのPeople & Ideas にて紹介された記事を翻訳したものを載せております。

日本語で読みやすいに適時意訳もしくは改変をしておりますが、

元の文章も読みやすいので、是非オリジナルの こちらも読まれてください。

留学先のエーデルマン( wikipedia)といえばノーベル医学生理学賞を1972年に受賞しています。

受賞後、免疫学から発生生物学にテーマが変わったこともあり、

きっと大隅博士もそうした流れでマウスの体外受精の研究をしていたのでしょうか。

本人は必ずしも順調なキャリアではないとおっしゃっていますが、

着実に、確実に成果を積み上げてきた研究スタンスは素晴らしいと思います。

では、以下がJCBのインタビューです。

記事が出たのは2012年4月になります。

Yoshinori Ohsumi:オートファジーの発見から今後の展望を語る

Text and Interview by Caitlin Sedwick.

(Translated by LSP member.)

まず始めに

大隅博士は現在のオートファジーに関する知見の礎となる多くの発見をしてきています。

オートファジーとは、細胞内にて過剰に産生されたタンパクや異常なタンパクを捕らえるオートファゴソームを形成、そしてリソソーム(植物細胞や酵母の場合は液胞)へと移り、消化・再利用するためのプロセスを指します。この現象は特に細胞が飢餓状態になると起きやすく、オートファジーによって細胞の生存期間を伸ばしていると考えられてきているのです。

 大隅博士は第二次世界大戦後の日本に生まれ育ちました。この頃の日本は貧しい時期でもありましたが、こうした時期を経験しながら、博士はオートファジーという分野を切り開くきっかけを発表するに至っています 1 2。そして、オートファジーに必要な多くのタンパク質や機能を同定し 3、飢餓状態でどのように働くかを示し 4、酵母におけるオートファゴソーム形成の機序を示してきたのです 5 6。こうした素晴らしい実績があるにも関わらず、JCBインタビューの問い合わせに驚かれてており大隅博士の人柄が感じとれます。東京工業大学の博士のオフィスにて素晴らしい話を聞かせてくださったことに御礼申し上げます。

 

EARLY LEAPS

ーどのような経緯で研究職を志したのでしょうか?

おそらく父の影響が大きいと思います。 父は九州大学で工学部の教授をしていました。父は工学という非常に応用的な分野にいましたが、どちらかといえば私は自然科学に興味を持っていました。高校生の頃には特に化学に興味があって、化学を学ぶために東京大学に入学しました。ですが、すぐに興味を失ってしまったのです。というのも、その分野は既にエスタブリッシュされてしまっているように感じたのが大きい理由でしょう。でも、私はラッキーでした。1960年代初期はまさに分子生物学の黄金期だったからです。私は化学の代わりに分子生物学がしたいと思えたのです。

当時、日本では分子生物学の研究室はそれほどなかったと思います。大学院生の私は今堀 和友博士の研究室に所属し、大腸菌のタンパク合成について学びました。残念ながら、私は、卒業するまでに、あまりよい研究結果を出すことができませんでした。なので、日本で良いポストを得るのも難しかったのです。結局、今堀博士のアドバイスをいただき、私はニューヨークにあるロックフェラー大学のジェラルド・エーデルマン博士の研究室にポスドクとして出向しました。

ーエーデルマン博士の研究室での研究はどうでしたか?

人生の中で一番つらかった時期ですね(笑い)。大学院生の間は大腸菌が研究材料でしたが、エーデルマン博士の研究室では動物細胞になり、発生生物学をすることになりました。私の持っていたテーマはマウスの人工授精の系の確立でした。ですが、初期胚の発生について詳しくありませんでしたし、研究には少しの卵しか回収できず、どんどんフラストレーションがたまっていきました。そんなおり、一年半が過ぎたあたりでマイク・ジャズウィンスキ博士がエーデルマン研究室に合流し、私も彼と一緒に酵母のDNA複製の研究をはじめました。これが私にとって大きな転換点でした。ここで私は酵母と出会い、そこから私は酵母のずっと研究を進めているのです。最終的には、東京大学の安楽泰宏博士の研究室に助手のポストを得て、日本に戻ることができました。

FIRST ADVANCE

ーいつ頃から酵母の液胞についての研究を始めたのでしょうか?

あの頃は多くの研究者が細胞膜でイオンや小さな分子がどのように輸送されるか研究していました。にもかかわず、細胞膜以外、つまり他の細胞小器官に関する輸送について研究している人はいませんでした。液胞は細胞のゴミ箱と考えられていましたが、それほど皆さんはその役割に興味がなかったようです。ですから、競合する研究者も少なそうでしたし、液胞における細胞内輸送について研究するのはとてもいいのではと考えました。それともう一つ、液胞についての研究をやろうと思ったのには理由があります。エーデルマンの研究室にいた時に、酵母から核の単離を試みていましたが、その途中で簡単に液胞を単離できるのを発見していました。この手法をもとに、液胞膜への能動輸送システムをたくさん見つけることができました。そのなかにはVacuolar-type ATPaseの発見も含まれています。こうした小さな成果を重ねていき、とうとう自分の研究室を持つに至りました。この時、私は43歳でした。そういう意味ではあまり順調なキャリアではありません。色々なことがありましたし、なにより原因は私自身にありますので(笑い)。

初めてオートファジーを観察したとき、この研究をしようと思っていたのでしょうか?

安楽博士の研究室でやっていたことと別のテーマをしたいと考えていました。なので、液胞の溶解について研究をしようと。当時は液胞の中で何が分解されていて、どのように働くのかわかっていなかったのです。

私はアイデアを持っていました。液胞は光学顕微鏡下で観察することができるのですが、それは既にタンパク質分解のゴミ箱のよなものであるとお漏れていました。ですから、私は、様々な分解が行われている液胞の形態学的な変化を追うのは簡単ではないかと思ったのです。細胞が分化をしていくプロセスの途中にはタンパク質の分解が必要です。ですから、窒素のない状態で胞子形成ができない、液胞のプロテアーゼの変異体に注目して、液胞の構造に変化がないか調べました。

一つ言えることは、私は顕微鏡で細胞を観察することが好きでした。顕微鏡を通してみることで、細胞のこと、とくに液胞について重要なことを知ることができたのです。ですから、私は顕微鏡で変異体を観察し、飢餓状態にした30分後にたくさんの小胞が現れて、液胞に集まっていく現象を観察できたのでしょう。仲の良かった電子顕微鏡学者の手助けもあり、オートファゴソームの形成と液胞への融合を証明することもできたのです。これがオートファジー関係の一番最初の私の仕事です。

NEXT STEP

ー博士はたくさんのオートファージに関連する遺伝子を見つけてきていますが…

1991年、私にとって最初の大学院生が、変異を起こした酵母を顕微鏡で観察しながら、非常に骨の折れるスクリーニングを行ってくれました。このアプローチを使って、彼女は一番はじめのオートファジー欠損変異体を発見しました。当時私たちはapg1-1と呼んでいましたが今はatg1と呼ばれているものです。そして、オートファジーのような現象にはもっとたくさんのオートファジー遺伝子があるはずだとスクリーニングを行い、この方法で14のatg遺伝子を見つけることができたのです。

その時はたった三人しかいないラボでしたが、まさにこのときにATG遺伝子の解析が始まったのです。この研究を完成させるには相当の時間がかかるなと不安もありました。その頃酵母のゲノム配列が公開されたのもあり、簡単にクローニングができるようにはなっていました。ですが、ATG1を除くどのプロテインキナーゼの遺伝子も新規だったがために、アミノ酸配列を見ても何をしているのかわからないままでした。

そんな中でブレイクスルーになったのは、私たちの研究室にポスドクとして来ていた水島昇博士の研究でした。彼はAtg12がユビキチン様タンパクであり、Atg5と複合体になることを示しました。Atg7はE1酵素、Atg10はE2酵素といったように、私たちの研究室でほとんどほとんどの経路を発見することができたのえす。そして最終的にNatureに論文が記載され、これが私たちの研究室で初めての大きな成功だったと思います(笑い)。また、phospholipid phosphatidylethanolaminに対するユビキチン様タンパクAtg8も見つけています。

私たちは現在それぞれのAtgタンパクの研究を進めています。なぜなら、まだどのようにオートフファゴソームの形成が行われているか理解が進んでいないからです。私たちはオートファゴソーム膜がどのように形成されはじめるのか、どうやってその膜が伸長し、包みこんでオートファゴソームを形成するのか。Atgタンパクの構造生物的なアプローチもしています。これはどのようにタンパク質が複合体を作って相互作用しているかを知りたいからです。オートファゴソーム形成のための複合体は非常に移り変わりが早く、なかなか難しいですが、こうした根本的な問いに答えるべく研究を進めています。

ー博士の今までのキャリアを踏まえて、今の若手の研究者たちへのアドバイスはありますか?

残念ながら今の日本で若い研究者は安定した職につきたいと思っています。リスクをとることがこわいのです。それに、多くの人たちが人気のある分野に行きたいと思うのは論文を出すためには仕方ないかもしれません。ですが、私は逆の意見を持っていました。私はいつも強豪相手がいない場所を選んで、そして例えそれがホットなトピックでなくても新しいテーマで研究をしていたのです。どんな研究であれ、真摯に取り組むことできっと面白い発見があるのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか。

大隅博士の生い立ちから考え方は、

生命誌研究館のサイエンティストライブラリーでも 紹介されています。

これは2009年のインタビューのようです。

最近では実験医学の創刊500号を記念した、

実験医学2012年8月号 Vol.30 No.12「世界を動かした生命医科学のマイルストーン」でも、

インタビューの記事がありました。

実験医学2012年8月号 Vol.30 No.12「世界を動かした生命医科学のマイルストーン」

どちらも、この記事のように英語からの翻訳ではないので、

より大隅博士らしさが出ていると思います。

最後に、

ジャンプのトリコ( wikipedia)にもオートファジーが出ています。


(大阪大学, 吉森研究室HPより転載, ©島袋光年/集英社)

日本で発見されたオートファジーが、

単純なサイエンスとしてだけでなく、

日本の今の少年少女が読むような有名な漫画雑誌に出ていることは、

ものすごく価値があるように感じます。

出典

・ Yoshinori Ohsumi: Autophagy from beginning to end, People & Ideas, The Journal of Cell Biology

Notes:

  1. Takeshige, K., et al. 1992. J. Cell Biol. 119:301–311. ↩
  2. Baba, M., et al. 1994. J. Cell Biol. 124:903–913. ↩
  3. Tsukada, M., Y. Ohsumi. 1993. FEBS Lett. 333:169–174. ↩
  4. Noda, T., Y. Ohsumi. 1998. J. Biol. Chem. 273:3963–3966. ↩
  5. Mizushima, N., et al. 1998. Nature. 395:395–398. ↩
  6. Nakatogawa, H., et al. 2012. Autophagy. 8:177–186 ↩
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