書店の育児コーナー近くに並ぶ、ほぼすべての名前事典(名づけ事典)の画数の数え方は、現在の正字体である新字体を基本にするということでした。

少数ですが鑑定士の中にも新字体を基本とする 
a の数え方をする方はいらっしゃいます。


a 「藤」18画 「郎」9画

b 「藤」19画 「郎」10画

c 「藤」21画 「郎」14画


次は b の数え方についてです。この流派は「藤」を新字体の18画ではなく19画、「郎」を新字体の9画ではなく10画と数えます。


そのように数える理由を知るために一冊の漢和辞典を開いてみようと思います。


95年前の大正12年(1923年)に出版された簡野道明著「字源」(角川書店)です。


※「字源」の最初の出版元は「北辰館」


「字源」は私の名前を命名していただいた陰陽家が愛用していた辞書でした。陰陽家のすすめで若い頃に入手した漢和辞典です。

大正12年発行の「字源」を開きますと「藤」の画数は19画、「郎」は10画になっています。

ちなみに現在の角川書店の「新字源」「大字源」の総画索引をみると他の漢和辞典と同様に「藤」は18画、「郎」は9画です。


とすると簡野道明著「字源」がつくられた時代がポイントになりそうです。


「字源」の著者・簡野道明は、江戸末期の1865年に現在の愛媛県宇和島近くの伊予吉田藩の藩士の家に生まれています。

明治40年(1907年)に明治書院から「故事成語大辞典」を出版し、その頃から漢和辞典の執筆をはじめたようです。

大正3年(1914年)に漢和辞典作成に専念するため東京女子師範学校(現在の御茶の水女子大学)の教授の職を辞し、およそ10年後に「字源」が完成しました。

ゆえに「字源」に掲載されている漢字は明治から大正にかけての時代に正当とされていた字体ということになるでしょう。


この時代の漢字の字体を現在では旧字体と呼んでいます。昭和24年(1949年)に定められた新字体に対していうところの旧字体です。

旧字体においては「藤」は19画、「郎」は10画が正解なのです。
旧字体の画数で数えるのが b の流派の画数の出し方ということになります。


旧字体ではなぜ「藤」を19画、「郎」を10画とするのでしょうか。


大正12年に出版された漢和辞典「字源」を開けばその答えは明らかです。

まず「藤」をみてみましょう。

「藤」は「字源」では


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になっています。注目していただきたいのは「くさかんむり」です。

「くさかんむり(艹)」の横線が一本ではなく真ん中が離れています。

 
「字源」に記載されている旧字体の「くさかんむり」を筆写すれば画数は4画になります。


新字体の「くさかんむり(艹)」は3画です。「くさかんむり」の画数が1画多いので旧字体の「藤」は19画になるのです。



では「郎」を9画ではなく10画とする理由は何なのでしょうか。


これも「字源」を開けばわかります。

「郎」は「字源」では


になっています。新字体の「郎」との違いにお気づきでしょうか。


旧字体の「」の左側の部分が新字体の「郎」と違います。旧字体の「」の左側は「良好な関係」「無印良品」の「良」になっています。

「良」の画数を数えれば7画になります。新字体の「郎」の左側の6画より1画多いのです。


右側の旁(つくり)「おおざと(阝)」は3画で同じですから、旧字体の「」は新字体の「郎」より1画多い10画になるのです。

 

新字体 郎   9画

旧字体 郞   10画


「藤」を新字体の18画ではなく19画、「郎」を新字体の9画ではなく10画と数える流派の画数算出の根拠は旧字体にあるということです。


命名に使われる漢字の旧字体をいくつかあげてみたいと思います。


新字体(画数)旧字体(画数)


亜(7画 )  亞(8画)

栄(9画)   榮(14画)

桜(10画) 櫻(21画)

絵(12画) 繪(19画)

恵(10画) 惠(12画)

広(5画)   廣(15画)

寿(7画)   壽(14画)

穂(15画) 穗(17画)

聡(14画) 聰(17画)

徳(14画) 德(15画)

豊(13画) 豐(18画)


「佐藤太郎」という名前は少なくても3通りの画数にわかれてしまう、それは「藤」と「郎」の画数の数え方が姓名判断の流派によって違うからです。

3通りをabcで整理すると次のようになります。

a 「藤」18画 「郎」 9画

b 「藤」19画 「郎」10画

c 「藤」21画 「郎」14画


これまで 
a と b の説明をしてまいりました。 a は新字体を基本にし、b は旧字体を基本にして画数の算出をするということでした。

ほぼすべての名前事典(名づけ事典)は 
a の数え方で、漢和辞典と同じ新字体の画数を数えます。

しかし新字体を基本とする 
a の流派ですが、場合によっては旧字体の画数で数えることがあります。

たとえば「徳永」の戸籍が新字体の「徳」ではなく旧字体の「德」になっている場合です。戸籍が旧字体であれば新字体の徳(14画)ではなく、旧字体の德(15画)で数えるのです。

他にも「桜井」が戸籍では「櫻井」となっていれば、新字体の桜(10画)ではなく旧字体の櫻(21画)で数えます。

ただ、同じ 
a の流派でも微妙な違いがあります。

  戸籍が旧字体であれば旧字体の画数で鑑定する

  戸籍が旧字体でも日常では新字体を使っているのであれば新字体の画数で鑑定する


戸籍が旧字体の「德」であれば無条件で旧字体の15画とする流派と、戸籍は旧字体の「德」でも日頃は新字体の「徳」を使っているのであれば新字体の14画で鑑定する流派があるということです。

新字体を基本とする流派の中でも細かな部分での違いがあるのです。

「佐藤太郎」は流派の違いによって少なくても3通りの数え方にわかれると書きました。「少なくても」という言葉を入れたのはこのような違いは他にもあり、その違いごとに流派をわけたら3通りどころではなくなるからです。